平安時代──「色白は七難隠す」
平安時代の美の基準は「色白・黒髪・ふくよかな体型」。紫式部の『源氏物語』には肌の白さを讃える描写が随所にある。白粉(おしろい)は鉛白(塩基性炭酸鉛)が主原料で、米粉や貝殻の粉を混ぜて使用した。
この「白い肌」の文化的背景には、日光を浴びない=屋内で過ごせる=高い身分、という社会的意味があった。
江戸時代──大衆化する「白粉文化」
江戸時代には白粉が庶民にも普及。遊女や歌舞伎役者の化粧技術は芸術の域に達した。しかし鉛白の毒性は深刻で、慢性鉛中毒による死亡例も報告されている。乳幼児が母親の白粉に触れて鉛中毒になるケースもあった。
明治30年(1897年)、鉛白に代わる安全な白粉として酸化亜鉛が導入される。これは近代化粧品の幕開けだった。
昭和〜平成──美白化粧品の誕生
「美白化粧品」というカテゴリが確立されたのは1980〜90年代。厚生省(当時)が「メラニンの生成を抑え、しみ・そばかすを防ぐ」という効能表現を認可し、美白有効成分の制度が整備された。
主要な美白有効成分の承認年:
| 年 | 成分 | 申請企業 |
|---|---|---|
| 1989 | アルブチン | 資生堂 |
| 1991 | コウジ酸 | 三省製薬 |
| 2002 | トラネキサム酸(美白用途) | 第一三共 |
| 2003 | カモミラET | 花王 |
| 2005 | 4MSK | 資生堂 |
| 2018 | ナイアシンアミド(美白+シワ改善) | コーセー |
2013年「白斑事件」の衝撃
2013年、カネボウ化粧品の美白化粧品に含まれるロドデノールにより約2万人に白斑症状が発生。自主回収となった。この事件は美白化粧品の安全性に対する消費者の信頼を大きく揺るがし、業界全体に影響を与えた。
令和──多様化する「美白」の概念
近年はグローバルなダイバーシティの流れを受け、「美白」という言葉自体の是非が議論されている。花王は2020年に「美白」表現の見直しを発表。「ブライトニング」「トーンアップ」など、肌色の多様性に配慮した表現への移行が進んでいる。