歴史と由来

ビタミンAは1913年、エルマー・マッカラムとマーガリート・デイビスによって発見された最初のビタミン(脂溶性因子A)。

レチノイド(ビタミンA誘導体)の皮膚科学への応用は1960年代に始まる。1969年、アルバート・クリグマン博士がトレチノイン(レチノイン酸)のニキビ治療効果を報告。その後、同じクリグマン博士が1986年にトレチノインの光老化改善効果を発表し、「アンチエイジング」という概念に科学的根拠を与えた。

日本では2017年にポーラが「リンクルショット メディカル セラム」を厚労省承認の「シワ改善」化粧品として発売。これを契機にレチノール配合化粧品の市場が急拡大した。

資生堂は純粋レチノールの安定化技術を長年研究し、2017年に「エリクシール」ブランドでシワ改善クリームを発売。レチノールの酸化・分解しやすい性質をいかに安定化するかは、化粧品化学の重要なテーマであり続けている。

科学的背景

レチノイドの作用機序:

1. 表皮への作用:角化細胞のターンオーバー促進、表皮の肥厚
2. 真皮への作用:線維芽細胞でのコラーゲン合成促進、MMP(コラーゲン分解酵素)の抑制
3. メラノサイトへの作用:メラニン輸送の抑制

レチノイドの強さの順:
トレチノイン(処方薬)> アダパレン(処方薬)> レチナール > レチノール > レチノールエステル

化粧品に配合されるのは主にレチノールとそのエステル。レチノールは皮膚内でレチナール→レチノイン酸へと段階的に変換され、最終的にレチノイン酸として受容体(RARα/β/γ, RXRα/β/γ)に結合して遺伝子発現を制御する。

知られざるトリビア

・レチノールの「レチナ(retina)」は網膜の意。ビタミンAが視覚に不可欠であることから命名された。

・「レチノール反応(A反応)」と呼ばれる一過性の赤み・皮むけは使い始めに起きやすい。これは正常な反応だが、多くの消費者がこの段階で使用を中止してしまう。

限界と論争

レチノールは紫外線で分解されやすく、朝の使用には日焼け止めが必須。また妊娠中はビタミンAの過剰摂取(催奇形性リスク)が懸念されるため、レチノイド配合化粧品の使用は避けるのが一般的。

「レチノール配合」と表記されていても、配合濃度には大きな幅がある。0.01%と1%では効果も刺激も全く異なるが、日本の化粧品では配合濃度の表示義務がない。

参考文献

・Kligman AM, et al. "Topical tretinoin for photoaged skin." J Am Acad Dermatol. 1986.
・Mukherjee S, et al. "Retinoids in the treatment of skin aging." Clin Interv Aging. 2006.