腸内細菌叢の発見
腸内に微生物が存在すること自体は17世紀、レーウェンフックの顕微鏡観察で知られていた。しかし、その全容が明らかになり始めたのは21世紀に入ってから。メタゲノミクス(環境中のDNAを丸ごと解析する手法)の発展により、培養不可能な細菌も含めた腸内細菌叢の全体像が見えてきた。
「善玉菌・悪玉菌」を超えて
一般に「善玉菌(ビフィズス菌、乳酸菌)」「悪玉菌(ウェルシュ菌等)」「日和見菌」という三分類が知られているが、現代の研究ではこの単純な分類は時代遅れとされつつある。同じ菌種でも株によって作用が異なり、環境によって「善」にも「悪」にもなりうる。
免疫細胞の70%は腸に
腸管関連リンパ組織(GALT)には全身の免疫細胞の約70%が集中している。腸内細菌は免疫細胞の「教育」に関与し、「敵」と「味方」を区別する能力の発達に不可欠とされる。無菌環境で育てたマウスは免疫系が未発達であることが実験で確認されている。
脳腸相関──腸は「第二の脳」か
腸管神経系には約5億個の神経細胞が存在し、迷走神経を通じて脳と双方向にコミュニケーションしている。ストレスを感じると腹痛を起こす(過敏性腸症候群)のはこの経路による。
近年、特定の腸内細菌がセロトニン(幸福ホルモン)やGABA(抑制性神経伝達物質)の産生に関与していることが報告されており、「腸内環境がメンタルヘルスに影響する」という仮説の検証が進んでいる。
日本人の腸内細菌の特異性
2016年の早稲田大学の研究で、日本人の腸内細菌叢は他国と比較して特異的な組成を持つことが報告された。特にビフィズス菌の比率が高く、海藻を分解できる細菌(ゾベリア・ガラクタンヴォランス等)が多い。これは味噌、醤油、漬物など発酵食品と海藻を多く摂取する食文化の反映とされる。